【妄想読書】もしも寒い休日の朝に布団の中で読むなら
いつもオススメの本を聞かれるのですが、どんな気分、どんな場所に合う本かでだいぶ薦める本が変わりますし、もういっそ自分でシチュエーションを想像してぴったりの本を3冊だけ厳選して紹介するコーナーを始めることにしました。
選ぶ本は完全に私の趣味です!
妄想シチュエーション
○寒い冬の朝、暖房つけてなくて寒くて布団から出られない
○今日は土曜日、まったり昼過ぎまで読書するのだ
○布団から出した顔と本を持つ手が冷たい。
こんな時はどんな本?
○お布団にいながら非現実に想いを馳せることのできる本
○現実の寒さと本の中の寒さに繋がりが感じられるような本
○のめり込むと1日が終わってしまうので良きタイミングでいったん読むのをやめられる本
オススメしたいこの3冊
①ソルジェニーツィン/イワン・デニーソヴィチの一日(新潮文庫)
無実の罪で10年の刑期を言い渡され、わずかな食事で極寒の地での重労働を強いられるシューホフのある1日を描いた作品。
と、書くとなんだか気持ちが塞ぎそうな印象を持つかもしれませんが、描いているのは彼曰く幸福な1日の出来事!雨の底抜けに明るいのです。
この劣悪な環境においても、生き続けることに迷いのないシューホフのささやかな日常に、命のきらめきすら感じてしまうのです。
「古くなった月はどこへいっちまうんだね?」と労働後に囚人仲間と会話するシーンがなんともロマンチックで印象に残っています。
彼らの寝具や衣類の寒さを思うと、同じ冬をこんなに暖かい布団の中でぬくぬくと過ごせる自分の幸福が身にしみて感じられます。
ホッキョクグマの三代記。
何しろホッキョクグマの気持ちに寄り添うなら冬です。しかもこんな夢のような物語にはお布団の中が似つかわしい。
舞台は冷戦時代のドイツが中心。
一代目は自伝を執筆し、二代目はサーカスでスターとなり、三代目は動物園のアイドル、あのクヌートとなります。
人間に飼われる白熊としての振る舞いと人間のような言動と、夢とうつつと。まるで短調の旋律でワルツを踊っているような淋しさと優雅さと可笑しさが共存した文学でしか表現し得ない世界に魅了されます。
お布団の中でちょっとうとうとしながら、めくるめく彼女らの世界に浸ってください。
三代目のクヌートが心細い夜に思考するシーンの言葉が素敵で印象に残っています。
《時間は食べ物と違って、がつがつ食えばなくなるものではない。時間を前にするとクヌートは自分の無力さを思い知らされる。》
第29回川端康成文学賞、第40回谷崎潤一郎賞、第8回木山捷平文学賞と数々の純文学の賞を総なめにした雪深い町で静かに暮らす人びとを描いた連作短篇集。
しんしんと冷えゆく雪沼を包み込むような優しく透き通った文章が心地よく、何気ない日常をこれほど印象的な作品に仕上げるのはまさに職人のなせる技です。
純文学は苦手という方にも是非読んでみていただきたいですし、堀江さんの作品が実は気になっていたという方にもオススメです。
私のお気に入りは、フランス料理を人に教え、一人息を引き取った老女の心の秘密を生徒たちが推測する「イラクサの庭」、雪沼でレコード屋を開業する男性がスピーカーの音質をよくするためにレンガを積んで調整する「レンガを積む」、一番筋の悪かった見習いが偶然店主になり中華料理店を営む「ピラニア」。
正直、あらすじを説明しても全然良さが伝わらないことがもどかしいのですが、さりげない一瞬一瞬にその人の積み重ねてきた人生がじんわりとしみ出しているんです。
休みの日にのんびり布団の中で読書できる幸せ
想像しただけでうっとりしてしまいます。
時節に合った本を選ぼうといつも思っているので、この3冊を読んだのは寒い季節だったと記憶していますが、「寒い」という共通項がありながら、ここではないどこかへ飛躍できる読書は本当に素晴らしいものです。
この冬もそんなぬくぬく読書にふさわしい1冊を発掘していきたいと思います。